第8回「未来の教育を語る」(ゲスト:高橋薫)【後編】

第8回のゲストは有明工業高等専門学校校長の高橋薫先生です。

前・後編に分けて、高校生の現状やこれからの教育について対談しました(前編はこちら)。

後編は、有明高専選抜プログラム「かおる塾」について語りました。

 

㈱ビッグトゥリー

代表取締役 髙柳 希

ディスカッション好きが高じて大学時代に起業。ディスカッション・コミュニケーション専門の教育会社として、企業研修や学校教育に携わる。2015年に「ディスカッションの学びの空間 Dコート」を開設し、現在に至る。

有明工業高等専門学校

校長 高橋薫

 1954年宮城県生まれ。地元の工業高校卒業後、コンピュータ系企業SE、東北大学技術職員・助手、非営利民間企業研究員、仙台高専教授、高専本部研究産学連携責任者を経て現在の有明高専校長に至る。専門は情報、コンピュータ科学。


ーー高橋先生は、有明高専の選抜生徒に企業訪問や合宿などを行う「かおる塾」を主催されています。「かおる塾」を始めた背景を教えていただけますか?

高橋薫(以下、高橋):現在の校長という立場が「かおる塾」を可能にしました。

公立の高校だと難しいですが、高専の場合は校長の責任の範囲で決定できることが多いので。

 

高柳希(以下、高柳):「かおる塾」実施の背景に、どのような思いがあったのでしょうか?

 

高橋:基本的に高専に来る子は優秀な生徒が多いです。

世界に羽ばたく子どもたちが普通の授業を受けても満足できないと思います。

私は、このような子どもたちの気持ちを伸ばしてあげたいという思いから、「かおる塾」を始めました。

私の願いは視野を拡げるために、いろいろな体験をした上で専門を学んでほしいということです。

 

高柳:専門に特化する上でも広い視野は大切ですね。どのように子どもたちを選抜したのですか?

 

高橋:2,3年生のクラスに募集をかけて、書類選考と面接を行い学業の成績が優秀でやりたいという気持ちが強い学生を選びました。

実施してみて、失敗しても構わないという気持ちでチャレンジしました。

 

高柳:失敗は短期的には残念に思えても、長期的にみると何かのエッセンスになると思います。

 

高橋:私もそう思います。

夏休み活動として、関西地区を対象とした研究所や企業への訪問を企画・実施し、そこでは現場で働いている研究員の方々らと直接面談させるようにしました。

このときはディスカッション形式にしたいという狙いでした。

後日このことに関してプレゼンテーションをしてもらいます。

プレゼンテーションの内容は、まず90秒間全部英語で自己紹介をし、その後、5分~7分でパワーポイントを用いての活動内容のプレゼンテーションを行うといったものです。

相当難しいように感じるかもしれませんが、この経験は将来必ず役に立つ機会があるはずです。

 

高柳:Dコートを運営する私たちも「かおる塾」の合宿でディスカッションのプログラムを実施させていただきました。

たとえば、「政治家に必要な要素は?」というテーマの議論の中で、何気ない一言から大牟田の市政について必要なものという議論に発展しました。

ディスカッションの中で、国の話から自分の地域の話に視点を変えることはディスカッションで重要な能力です。

1つの話題を、話している中で広げたり深めたりできるという姿勢に驚かされました。

ーーかおる塾のディスカッションプログラムについて

高柳:中高生のときは、「外に興味を向けること」はもちろん大事ですが「自分を知る」という大切な時期であると私は考えています。

自分が考えていることや、好きなこと、嫌いなこと、夢中になっていることなど自分自身を知る機会がとても大事です。

自分を知ることは、他者と対話しなければ難しいため、人と話すことでより自分を明確にしていくプロセスにもなります。

これを前提として社会に進出すると嫌なことや辛いことがあったときに自分の価値観や考え方を調整することができます。

そこで合宿初日のプログラムは「自分を知る」内容を中心にし、2日目に「社会や未来」に関するマクロなテーマでディスカッションを行うプログラムを設計させていただきました。

 

高橋:なるほど。すぐ活きるかは分かりませんが、よかったと思います。

 

高柳:確かに、すぐ活きるかは課題です(笑)。

ただ、教育というものは今すぐ花が咲くような短期的なものではいと思います。

感覚としてはいつどんな花が咲くかわからない種に水を上げたり、太陽を浴びせたりすることです。これが教育であると思います。

 

高橋:そうですよね。押しつけるものではないですからね。

 

高柳:私たちは、子どもたちに強制的に意見を言わせるようなことはしません。これは大事なことだと思います。ただ、ディスカッション力が学業成績に反映されるわけでもないので難しいですね。

 

高橋:そこが難しいところではあります。教育はビジネスではなく将来投資の面があるので一筋縄ではいかないですね。人や教育を受けている側によっても評価は分かれるところではあります。

 

高柳:最近では、ディスカッションする機会が学校では増加しているようなイメージがありますけど、いかがですか?

 

高橋:高専では実験・実習の発表という機会が数多くあります。

ただこれはディスカッションではなく、単なるプレゼンです。

そこでディスカッション力を養うには少々違いを感じます。

 

高柳:コミュニケーションは「話す」「聞く」「読む」「書く」の4つの活動といわれています。ディスカッションでは、話すことと聞くことをミックスし、さらに「考える」まで学ぶことができます。

 

高橋:カリキュラムが過密で、しないというより、できないのかもしれないです。

時間に余裕があればディスカッションをする流れになるのでしょうが、そこまで時間に余裕がありません。

私は、授業で時間がないのだったら、例えば、部活の時間を縮めてディスカッションする方が実りあると思います(笑)。

ーー今後の「かおる塾」について、先生は今後も「かおる塾」を継続していく予定ですか?

高橋:継続させていきたいという気持ちは当然ありますが、どうしても資金面がネックになります。今回は様々な企業や財団の方が協力してくれたことにより実現できましたが、毎年外部から資金を調達することは至難の業なので、次回がどうなるか正直わかりません。

大きなビジョンを組むと打開策は見えてくるかもしれません。

ただ今年行った実績はあるにしても、まだ結果が伴っていないので厳しいです。

 

高柳:施設や教員がそろっている環境で主催するという行為は素晴らしいと思います。

 

高橋:将来的には他の高校からも募るという方法も選択肢の一つではあります。

ただ、10人を超えてしまうとディスカッションにならないので少人数というところだけはそのままにしておきたいです。とにかく、今後もなんとかして存続させたいと思っています。

 

ーー最後に今後のDコートについてアドバイス・ご意見をお願いします。

高橋:社会人基礎力をつけようとするもののひとつはディスカッションだと思います。

ただこれを学校で実行しようとしたら具体性が無いために大概失敗します。

普通の人に響くことは、例えばこういった職業に就きたいといったようなことに応じる具体的なディスカッションだと思います。

Dコートは視点が面白いので宣伝は難しいですけど口コミで成功例が広がってくれればいいと思っています。

 

高柳:ありがとうございます。今後もディスカッションの機会を広げていきたいと思います!


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