「未来の教育を語る」第4回は高柳が起業するきっかけとなった一人でもある阿比留教授と語ります。
前編では現代社会、企業が必要とする人材についてお伝えしました。後編では社会へ出る前の教育について大学現場の変化なども交えながら語り合います。
㈱ビッグトゥリー
代表取締役 髙柳 希
ディスカッション好きが高じて大学時代に起業。ディスカッション・コミュニケーション専門の教育会社として現在に至る。
福岡大学 経済学部
教授 阿比留 正弘
「ベンチャー起業論」を主宰。学生主導の運営で、実践的で主体的な学びの機会を創出する。
教育は「自分」を見つける機会
ーーこれからの時代を生き抜くために、教育に必要なことはなんでしょうか?
高柳:今、社会で求められる人材が過去と大きく変わってきていることを感じています。しかし、学校教育はビジネス社会ほど大きな変化があったようには感じません。これでは学校と社会で大きなギャップがあるのでは?
阿比留:実は僕はそこを変えてもらいたいと思っているんです。人間の可能性は無限の力を持っているのに、今の教育はその可能性を殺してしまっています。
高柳:興味深いですね!どこで可能性がつぶされてしまうのでしょうか?
阿比留:「それは無理」「出来ないよ」などの言葉や感覚、親や先生、時には自分からの否定です。
そういった否定ではなく自信を持つ場が必要だと感じます。
高柳:私の場合は「無理だよ」という否定がバネにもなりました。肯定だけが自信につながるとは限りません。
阿比留:もちろんそういったケースもあります。肯定だけをするわけでもなく、言葉の問題でもないんですよ。その人の可能性を引き出すための言葉であればもちろん否定もあります。
「あなたにその可能性はない」ということと「相手を認めながら疑問を提示する」ことは違うんです。
高柳:確かに!コミュニケーションの取り方で自分へのイメージが変わりますね。
阿比留:ほかの誰かと同じではなく、「自分の一番」「素直な自分の姿」それは何でしょう?
それを発見するような教育や問いかけが必要なのです。単純に否定しない、肯定だけする、ということではありません。
高柳:とても共感しますが、たとえば私は学生時代、自分の考えを発表する場はほとんど経験しませんでした。先生の授業にはありましたけどね。
社会で自分の考えをまとめてアウトプットすることを求められても、経験がないと難しいのではないでしょうか。
阿比留:現在の多くの教育は「教える側」と「教わる側」が固定されています。これでは一方通行でインプットに偏ってしまいます。私は、学生が「教える側」になる機会があってもいいと思っています。私の授業であるベンチャー起業論ではその機会や経験の場をつくっているんです。
大学入試に変化はあるのか?
ーー教育改革と大学教育の現場の変化について教えてください。
高柳:2020年の教育改革がニュースでも取り上げられるようになりましたが、実際のところ変化はあるんですか?
阿比留:それについては、まずベースに2012年に出された中央教育審議会の答申というものがあります。
これまでの受動的な教育から能動的な教育へシフトするという内容です。これが世間でいうアクティブラーニングですね。
最近ニュースによく出ていますが、実際のところは浸透していないと感じます。大学ですら増えてはいないんじゃないかな。
高柳:どうして導入が進まないのでしょう。
阿比留:教授と学生の関係が上下関係になりすぎていることはひとつの要因かもしれませんね。
学生自ら考え、自ら答えを出すことへ期待するということは、同時にその失敗も受け入れるということです。
失敗するとわかっていても口を出さず見守るのは難しいことです。学生自身が失敗したらまた考える、自分が納得するまでチャレンジできる場づくりが必要です。僕は自分の授業では黒子に徹するようにしています。
高柳:私は背景や目的を考えたり、仮説を立てたり、そうやってさまざまな視点から物事を深め、捉える力は大学だからできると思います。
各分野を通して、自分の思考の幅や深さを持つチャンスが大学にはあります。
しかし、単位のために行動する人も多く、どれだけ徹底して専門分野へ取り組めるかは疑問です。先生はどのように学生の「考える力」を引き出しているんですか?
阿比留:2つありますね。ひとつは大きな経済の流れや事実をしっかり捉えること。もうひとつは世の中をけん引している考えや、魅力的な人を呼んで講義をしてもらう。あらゆる分野の「本物」に触れる機会を提供しています。
高柳:確かに、ベンチャー起業論にはたくさんの経営者や開発者が授業に来ていますね。
阿比留:僕よりも、各分野で活躍している人の話を聴いたほうがいいですね(笑)
もちろん、それでもくすぶっている学生はいるけれど。それは社会に出て「あの時のことは…」とあとで気づけるかもなと思います。
そのための機会をいくつも散りばめるようにしています。
高柳:アクティブラーニングは教える側にも学生側にも、とても考える時間や考える習慣が必要だと思います。
日頃から「正解」を出し慣れているし、なかなか難しい気もします。そもそも入試もそうなっていますよね?
阿比留:そうですね、現在の入試は「正しく覚えていますか?」という試験ですね。
しかしこれからそれはあまり価値がないかもしれない。クイズ番組だって、テレビ見ながら検索すれば先に答えが出ちゃうわけでしょう?
そういったものへお金を払う価値がなくなってしまいます。今後は「自分の頭で考えること」の価値が高まります。
高柳:大学入試も今後変わっていきますね!
阿比留: 現実的には変わらないんじゃないかな(笑)
高柳:え!?そうなんですか?
阿比留:文科省が打ち出してるのは事実で、少しづつは変化もあるかもしれないけれど。
社会の要求と大学の現状にはズレがあります。人間らしい答えを出す人が求められているという意味では、君たちがやっていることは価値が出てくると思いますよ。
君たち、ちょっととズレてるからさ(笑)
高柳:また!でも、それは嬉しい皮肉ですね(笑)
出口の「見える化」が大切
阿比留:君たちの「Dコート」ではどんなことしているの?詳しくは知らないから(笑)
高柳:Dコートは、一般の教育プログラムとは大きく違う点があります。
プログラム自体に「段階」を設けていません。第1ステージができたら次は第2ステージ、というような段階がないんです。
つまりサークル型の教育です!初めて来た人も、いつも来ている人も、早い遅いの基準がないのでいつからはじめても一緒に学ぶことができます。
阿比留:学校教育とは違う前提だね。
高柳:そうです。繰り返す中でディスカッションの力が自然に身につきます。他者とくらべず、自分自身の課題や目的に向かって成長していけるプログラムをつくりました。これはDコートで使っているディスカッションテーマです。
阿比留:いろいろなテーマがあるんですね。この「後世に自分を残すとしたら」は面白いですね。映画、本、銅像・・・ここから選ぶんだ。
高柳:そうです。このようなディスカッションをしていると自然に「私たちは何を残したいか」という視点になります。
何よりお互いに刺激を受け合って社会や自分について考えはじめます。AIのこと、休日の過ごし方など、勉強や試験とは直接関係ないお題もたくさんあります。関心のアンテナを張るきっかけになればと思いお題をつくっています。
阿比留:昔から君はずっと「討論」とか「ディスカッション」と言い続けているね。
高柳:大好きですからね!私は議論していると「やってみたい」「知りたい」という原動力が湧き起こってきます。
自動車でたとえると最初のエンジンがかかるイメージです。
阿比留:こういうプログラムはすごくいいと思うよ。入口としてはね。
でも、出口がよく見えないように思いますね。
高柳:そこは悩みの種です。それぞれの生徒にそれぞれの結果があります。Dコートのゴールをひとまとめにすることは難しく、非常にわかりにくいですよね。
阿比留: 簡単ですよ。
高柳:え!?
阿比留:きっとDコートへ来た人たちがいろいろなことを言うと思います。
こうなったとか、ここがよかったとか。そのうち共通点が見えてくるはずです。
それらをしっかり記録して、アクションへつなげてください。出口の見える化です。
高柳:なるほど!確かに、生徒や保護者の方からいろいろな声をいただいています。
「子どもが落ち着いて話すようになった」「Dコートでは安心して自分を出しているようだ」など、各自バラバラですけれど。「自信がついた」というのは、みんな共通してるかな。
阿比留:それらの記録が大切ですよ。
それに、その子たちが大人になってまた来てくれたら面白いじゃないですか。
ベンチャー起業論も一緒です。ビジネスプランコンテストに事業プランを出した当時の高柳さん。それをやって、そのままやり続けて10年後の君がまた訪ねてくれるようにね。
そんな感じで、僕も見える化したいと思うんですが・・・
高柳:簡単なようで難しいですね!でも、とても大切なことだと思います。私たちもがんばります!
日本初!ディスカッションの教室「Dコート」
コミュニケーション力を総合的に育む教育プログラムです!
グローバル・政治・社会・哲学・自分・友だち、身近なことから社会のことまで幅広いテーマのディスカッションを通じて、豊かな視点や興味関心のアンテナを育みます!また、一人ひとりの個性を尊重し、「自分らしいコミュニケーション」を大切にしながら、総合的にコミュニケーション能力を高めることができます。これからの時代に必須のコミュニケーション能力をDコートで育てていきませんか?