「未来の教育を語る」第7回のゲストは認定NPO法人アカツキ代表理事の永田賢介さんです。
NPOを支援するNPOとして6年前にアカツキを立ち上げた永田さん。今回は永田さんと「理想と現実」について語り合いました。
㈱ビッグトゥリー
代表取締役 髙柳 希
ディスカッション好きが高じて大学時代に起業。ディスカッションを基軸とした独自の教育プログラムを開発。アカツキへは理事として参画している。
認定NPO法人アカツキ
代表理事・職員 永田賢介
学生時代からボランティア活動を経て、NPOのコンサルティングを行なうアカツキを立ち上げる。団体内部のコミュニケーションを中心に様々な支援を行う他、大学の非常勤講師や行政のアドバイザー・委員なども担う。
NPO法人アカツキができるまで
高柳:Dコートを運営している髙柳です。ディスカッション好きが高じて、ディスカッションの教育会社を設立して10年目です。3年前にディスカッション塾というかたちでDコートを開設しました。
永田:認定NPO法人アカツキの代表をしている永田です。アカツキは簡単にいえばコンサルティングを行なっています。我々も、クライアントもNPOというかたちです。
NPOの事務手続き、内部コミュニケーションのサポート、会員や寄付者をどのように増やすか(ファンドレイジング)、大きくいうと仕事はこの三本柱です。
高柳:永田さんと出会ったのは私が開いた討論イベント「討論カフェ」だったような気がします。15年くらい前でしょうか。もう記憶があまりないです(笑)
当時は、そんなに親しいわけではなかったですよね?
永田:そうですね、初めて会ってからその後7年ほどは特に会うこともなかったですね。
その間、私は就職し、働きながらボランティアやチャリティーイベントの活動、寄付について学んでいました。
高柳:そう、大学職員への就職は活動的な永田さんのイメージとは違っていました。
永田:やりたいことははっきりしていました。でも、実現する手段や実力がなかったので、社会勉強することを恩師に勧められたのです。
そこで、時間的にも安定して仕事外の活動をできる、大学職員になることにしましたが、当時の彼女に刺激を受け、「東京で修行しよう!」と4年半で仕事を辞めました。結局フラれましたけど……。
高柳:意外なきっかけですね!
その後、討論カフェに突然来てくれたことを覚えています。
そのとき、アカツキ立ち上げメンバーへの理事として誘ってくれましたね。今考えたら、なぜ誘ってもらえたのか分からないです(笑)
永田:私はアカツキを起業する前に「信頼できる人」と一緒にやろうと決めていました。前の団体では、個々が持っている能力やできることでつながっていた部分があったのですが、このことで反省する出来事がありました。
そこで、アカツキでは能力ではなく、人として信用できるかどうかで関わろうと決めました。
高柳:過去の経験から決意したのですね。
永田:一緒にやるということは自分がその人によって傷つけられるかもしれないし、その人を傷つけるかもしれない。傷つけるほうが苦しいです。
それぐらい覚悟を持って深く関われる人を探していました。そんなときに高柳さんを思い出して会いに行ったのです。
高柳:思い出してくれて嬉しいです。そんな背景があったとは!
永田:そういえば、理事を引き受けてくれた理由も改めて聞いたことはないですね。
高柳:究極の民主主義を考えていたときだったからです(笑)
当時、「みんなで決める」とか「みんなで考える」ということが、どこまで可能なのかと考えていました。実働する人・お金を出す人・受益者の関係に悩み、営利を目的とする会社組織だけですべてを網羅することは無理だという結論に至ったときでした。
しかし、永田さんの話を聞いて、「みんなで決める」という理想を実現できるかもしれないと思い、個人的な挑戦のつもりで引き受けたんですよ。
理想を見つけたきっかけ
永田:アカツキの理想・ビジョンは「持ち寄って働く、寄り合って暮らす、それぞれの私たちに開かれた社会」です。
高柳:「それぞれの私たち」としていることがポイントですね。
永田:「みんな」でもないし「私」だけでもない。一定数の規模の仲間と自由につながることができる。
その中では似た者同士でいいけど、それだけで生きていくことはできず、別の価値観のグループとぶつかるときは挑戦しなければなりません。必ず意見が一致するわけではなく、その都度、合意形成を繰り返していく必要があります。そんな社会や自分たちを目指したいと思っています。
高柳:個人もグループもどちらも許容される、そんな社会ですね。
「持ち寄る」というイメージが難しいですね。社会ではどちらかというとギブ&テイクの習慣が強い気がします。持ち寄るというより「あげる」「かえす」という意識かな?
永田:そうですね。ギブ&テイクは、「自分が出したらその分返ってくる、返ってこなければ出さない」という考え方ですね。一方、「持ち寄る」とは「手放す」ことです。
たとえば、みんなでお菓子を持ち寄ったとき、食べる量や苦手なものは人によって違いますよね。
でも、そこで楽しい時間を過ごせるのならオッケーなはずです。簡単に言えば、出す人と取る人が一致しなくてもいいということです。
高柳:ギブ&テイクだと、お菓子が食べられなかったときは残念に思いますね(笑)
永田:こういうビジョンを掲げているので、私たちは「NPOを強化する」とか「社会課題を解決する」というようなことを発信していません。
おそらく非営利コンサルティングの仕事では珍しいと思います。
高柳さんの理想は?
高柳:私の理想は、ディスカッションの場を日常にすることです。
ディスカッションが好きで、いつもいろいろな問いを周囲へ投げかけていました。私の大学時代に、その問いは受け入れられませんでした。
永田:どれくらい前からディスカッションを広めることを考えていたのですか?
高柳:大学1年生からですね!
高校生の頃、英語コースに所属していました。カナダ人の先生が人種差別や善意などについて日々議論させてくれました。
当時、ディスカッションする環境が普通だと思っていて。大学に行ってもそうだと思っていたんですが、実際は違いましたね。
永田:では、理想に行き着いたのは、その考えが壁にぶつかったからこそなのですね。
高柳:はい。私はディスカッションする場が増えればいいと思って会社を設立しました。
永田さんはどうやって理想を持つようになったのですか?
永田:私は昔、「組織があるから個人がダメになる」と思っていました。アナーキスト的な感じですね(笑)
これをたどっていくと自分の息苦しさにつながりました。
別にやりたいことがあるわけではなくて、ただ穏やかに生きることを邪魔しないでほしい。防御や拒否から理想が始まる感じです。
高柳:なるほど、「持ち寄って、それぞれに拓かれる」というビジョンがピンと来ました。
お互いが関わりを持ちながらも、一人ひとりも尊重される、そういう社会は私も追求したいです。
理想と現実のギャップに出会ったとき
高柳:理想があれば、現実とのギャップや壁ももちろんありますよね。
永田さんはそういうとき、どうしますか?
永田:私の対応策は「範囲で括る」ということです。
いきなり社会全体を変えようとするのではなく、まずは自分から、もしくはアカツキという組織の中で小さく理想を実現しようと。
そこでできたら、壁を越えていける可能性があるのではないかと思えるので。
ただ、先程お話したように「理想に対してこれは嫌だな」というマイナスの現実からスタートするので、ギャップという意識はあまりなかったかもしれません。
高柳:なるほど!常に現実にいるイメージですね。
永田:ギャップというより「ぶち壊したい」という気持ちが先ですよね。
そういう意味ではいつも現実にがっかり(笑)ベースが絶望で、たまに理想の星が光っているように感じます。
普段から暗いところにいるので、理想の星は比較的探しやすいです。
高柳:私は、現実は概念だと思っています。たとえば「物事の節目」という表現を使いますけど、節目は人によって異なります。
何歳だから大学へ入るとか、無意識の中に概念があり、それが現実と認識されているのかなと。年齢、権力、などの概念には結構苦しめられますね。
そんなときは「人類皆同級生」と思うことが、理想と現実のギャップを埋めるための私の処理方法です。何億年という地球の歴史からみると、10年、100年の違いなんて同級生みたいなものです(笑)
永田:大きな枠でとらえ、相対化しているということですね。
私の「ぶち壊してオルタナティブ(代替案)を作りたい」とは考えが異なりますね。
高柳:目指しているところは同じですけど、アプローチは違うと思います。
永田:私、もともと性格も暗いですからね。高柳さんが会社に行くとき「あえてテンションを落としてから行く」という話を聞いて、ものすごく衝撃を受けました。
高柳:私の根の明るさ、ハイテンションはそのままで仕事の場に行くと不相応なほどです(笑)
永田:私は正反対で根暗です。素の状態だとあまりにも暗すぎて、知り合いに「体調が悪いの?」と心配されることもあるくらいですが、それが私の普通の状態です(笑)
だから、クライアントを訪問する際は明るくハキハキした必要とされる自分になります。
忙しい時期が続くと元に戻りそびれて「あれ、これ誰だろう?」って混乱しますね。
高柳:テンションを上げるにしても抑えるにしても、それぞれ調整していますよね(笑)
永田:特に無理しているわけではないんですけどね。それにしても抑える人は少ないでしょう(笑)
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